山陰〜歴史と文学の旅(宮崎修二朗著)


大阪に本社を持つ出版社の保育社がつくった、モノクロが多い「カラーブックス」シリーズで、山陰を取り上げた本がありまして、その名も「山陰」です。

 山陰といっても、但馬地域も含めて、あります。もちろん「城の崎にて」の城崎温泉などが有名ですね。そこから、因幡伯耆、出雲、石見と下っていきます。最終的には津和野の森林太郎の墓にたどり着くのですが、こうしてみると、小説や短歌などに詠まれた場所がたくさんあることが分かって面白いですね。暗夜行路で舞台となった大山では志賀直哉との絡み、松江は当然のことながら小泉八雲加賀の潜戸出雲大社まで、八雲の作品にたくさん出てきます。石見でも雪舟の庭がある万福寺、柿本人麻呂も石見にいました。島村抱月森鴎外の二大巨頭の存在も大きいですね。

 こうしてみると、鳥取から出雲にかけては、志賀直哉小泉八雲に代表されるように旅でやって来た文人たちが、山陰という神話の舞台に魅せられて数多くの作品を残している一方、石見地域では、森林太郎島村抱月田畑修一郎、近年では直木賞作家の難波利三など、出身の作家が多いことが分かります。勝手な分析すが、田んぼが少なくて、厳しい土地柄の石見では、外に出て活躍するしか生きるすべがなかったのか、外で活躍する人が多いように感じます。文学と風土を絡めて考えると奥が深いように感じました。

保育社、1969年)