恋の蛍(松本侑子著)


 表紙の美人は太宰治と入水自殺した、山崎富栄です。愛と性について、深い洞察と表現をもって知られる松本侑子さんの新たな代表作と言えましょう。出雲市出身の松本さんが、第29回新田次郎文学賞受賞された作品です。

 松本侑子さんといえば、1987年に「巨食症の明けない夜明け』ですばる文学賞を受賞した後、赤毛のアンの全文訳で名をはせました。

 恋の蛍は、40歳の太宰治と、不倫の末に、玉川上水で心中した山崎富栄とはどんな人だったのだろう、当時の新聞記事と、長年読み続けてきた松本さんの素朴な疑問から、物語は始まります。どうも、太宰治の愛人という位置づけから、富栄は、ふしだらな女、というイメージがつきまといますが、「そうではないのではないか」との疑問から、富栄の関係者への取材をおとに書かれています読み進めていくと、ふしだらな女との評判があった富栄が、実は日本の美容界の草分け的存在だったことが浮かび上がってくる。なぜ、28歳で太宰を愛し、30歳で心中に至ったのかが、松本さんの綿密な取材で解き明かされます。

(光文社、2009年)