銀の島(山本兼一著)

 2014年に亡くなった時代小説作家の山本兼一氏が石見銀山を舞台に描いた歴史小説です。山本兼一氏と言えば、「利休にたずねよ」で直木賞を受賞された大作家。この利休にたずねよは、島根は関係ないですけど、私が読んだ小説の中でも、ストーリーといい、人物造形といい、絶品中の絶品でした。利休と秀吉の美をめぐるやりとりは、息をのみます。
 
 さて、小説「銀の島」の舞台は16世紀の石見銀山。当時、世界に銀を大量に供給していた石見銀山を、ポルトガル王の「石見銀山を奪え」という命令を受けた司令官が、宣教師ザビエルに同行して日本に潜入します。これに対抗する主人公は、薩摩藩を飛び出した武士の安次郎。暴虐の限りを尽くす父を殺し、薩摩を飛び出し、ザビエルの道案内役を引き受けることになる。しかし、そのザビエルと行動を共にするバラッタ(司令官)の野望を知った安次郎は、友情を結ぶ倭寇の王直とともに、石見銀山奪取のためい迫り来るポルトガルの大艦隊を迎え撃つ。安次郎が戦いにさいして、最も大切にしたのは、国の枠を超え、商売の損得も超えた、「仲間」の存在だった。

 石見銀山世界遺産として認められた後、戦国時代に世界の銀の3分の1を生産していたということが広く知られるようになりました。日本の戦国時代において、毛利や尼子、大内、その後は秀吉や徳川など国内での存在の大きさはいくつも書かれてきましたが、世界の中で石見銀山が果たした役割を評価する作品がでてきたことはすごくうれしいことですね。しかも、日本とポルトガルの対決というだけではなく、倭寇=大海賊を登場させ、国家の枠を大きく超えて、壮大なスケールの物語に仕上げた山本兼一さんの構想力に脱帽です!実際、日本の国内には小国家が乱立していた戦国時代にあった銀山というだけでなく、その銀山を真ん中において世界を俯瞰したときに、石見銀山の真の姿、その存在の大きさが見えてくるように思います。それにしても、ザビエルという人は、どういう本当は純粋な宣教師だったのか、それとも、侵略者の手先だったのか、歴史の深遠も覗かせてくれる逸品です。

 石見銀山を舞台にした小説ではほかにも、安部龍太郎の「五峰の鷹」も良いです!