阿須那史考(三上巌著、阿須那公民館発行)

 島根県邑智郡にある「阿須那」と言っても分からない人が多いかもしれません。「次の日祭り」という祭りがあって傘鉾という出し物が練り歩くので有名です!それでも分からない?池月という名馬の伝説があって、そこには、「池月酒造」というのがありまして、おいしいお酒を造っています。「誉池月」です。合併する前は羽須美村。10年前に石見町と瑞穂町と合併して、邑南町となりました。

 「阿須那史考」は1957年(昭和32年)に当時、口羽村との合併を控えた阿須那村が、阿須那の歴史をまとめようと阿須那公民館が発行した本です。冊子の執筆者の三上巌さんという教員とみられるかたが執筆されています。著者の前書きで「日貫にて」と書いてあるところをみると、阿須那に長年赴任した後、日貫に異動になった人物と思われます。

目次を紹介します。
一、村の開拓
二、阿須波(あすは)の神
三、古墳の話
四、神代郷(くましろごう)
五、賀茂神社
六、神仏混淆
七、次の日まつりと社宝
八、久永の荘
九、藤かけ城
十、高橋氏のこと
一一、村の旧家のこと
一二、出羽組─五人組制度
一三、浜田藩の政治─春定用捨事件と石懸一件、回文写と手紙
一四、阿須那市史─阿須那の町
一五、たたら
一六、石見の真宗
一七、寺請制度と宗教論争
一八、民間習俗─かぐら、盆踊、田ばやし、民謡など
一九、明治からのこと(一)
二〇、明治からのこと(二)
付録(郷土史年表、阿須那村史蹟分布図、重要文化財一覧、後がき)

 この阿須那の地が最も輝いた時代があったとすれば、戦国時代だったかもしれません。目次の九、十に「藤かけ城」「高橋氏のこと」というのがあります。高橋氏は中国山地の戦国初期の武将で、最終的には毛利に滅ぼされるのですが、1340年ごろから1530年ごろまで、阿須那の町に近い木須田というところに藤掛城という山城を築き、邑智郡南部から広島県北部(現在の府中市上下町や安芸太田市など)も勢力圏に治めていたことを記しています。山城で平地も少なかったこの地域でなぜそこまで勢力を保てたのか分かりませんが、例えば「出羽鋼」の異名をとったたたら製鉄や、石見銀山にも匹敵したと言われる久喜・大林銀山の影響もあったのかもしれないと思います。また、阿須那の町は牛馬市が盛んに行われた場所で、名馬池月もここで目に留まり、源氏方に売られ、後に宇治川の戦いで先陣争いを繰り広げたという歴史もあります。

 いまは過疎の進む地域ですが、阿須那史考のような先人が残した記録を後世にきちんと伝えていきたいものです。そのことが、地域への愛着を生み、この地域を支えようという子どもたちを育てることになるように思います。こういう書物は復刻版などをつくっておくといいかもしれませんね。