山陰鉄道物語(山崎弘著)


 著者は長年、国鉄に勤めた方です。お仕事が一段落したところで、山陰の鉄道の成り立ちについて、文献などを調べて、一冊の本にされました。山陰の鉄道が、どのようにしてできて、あるいは、できなかったのかについて、鉄道の歴史を知らない人でも分かりやすく書かれていて、「入門編」としてもいいと思います。

 山陰の鉄道は、境港から始まりました。境港と御来屋間が開業したのが1902年です。新橋と横浜間の開業が1872年ですから、山陰まで鉄道がくるのに30年かかったということですね。それから山陰本線が次第に東西に広がり、京都方面から大社駅までつながったのがさらに10年後の1912年、浜田、益田、津和野を経由して山口線まで全線がつながったのが1923年。新橋に走ってから実に50年の月日がかかっていました。

 いまでも高速道路は山陰にはできていなくて、石見が最後に取り残されていますが、鉄道も最後の最後にできていたんですね〜。山陰鉄道物語は、山陰が全国でいちばん開発が遅れる、いまの構造と二重写しになっていることを実感させてくれます。当時から、住民の開発への夢が政治や経済を動かし、陳情、採択、開通という政治システムも現代とまったく同じだと思います。

 この本には、「陰陽連絡の夢」という項があって、木次線三江線など現在もある鉄道以外に、大社と宮島を結ぼうとした壮大な計画をもった私鉄があるなど、山陰と山陽をむすぼうとしたさまざまな歴史を学ばせてくれます。

 三江線は廃止がささやかれていますが、これから面白いことが起きるかも。頑張って乗ろう!

(今井出版、2002年)