僕たちは島で、未来を見ることにした( 株式会社 巡の環 阿部裕志・信岡良亮著)


島根県海士町は、このままでは人口が減って島が成り立たない、と危機感を覚えた山内道雄町長や町職員らを中心にした町おこしの成功例としてかなり有名になっています。この町おこしの核になっているのは、若者たちのチャレンジを精いっぱい応援することだと思います。この本に出てくる巡の環の二人の能力の高さ、行動力、先見の明などがあったからこそだと思います。そのチャレンジを受け入れて、精いっぱい応援しようとする海士町の「受け入れ能力」の高さが背景にあり、海士町の成功の秘訣になっていると感じています。

この本は、海士町にIターンした二人の若者の起業の物語です。それもただの起業ではなく、島で何もないところからスタートします。普通は起業するにはニーズとかシーズとかあることが前提ですが、何もないのです。ようするに、仕事を創っていかなければなりません。お米を売ったり、建物の管理をしたり、地域と一緒になって考えて行動する中で、二人は島の「未来」を考え、そして日本の未来を考えます。

「未来」とは、島や、島根に迫っている、超高齢化、超少子化、そして、人口減少です。この日本社会の行き詰まりをどうやって、克服するのか。克服というと違うかもしれません。日本の「課題の最先端の場」として海士町のチャレンジは、日本の未来の課題とその解決を先取りしています。そこで課題を解決していくことが、日本全体の未来を考えていくことになると思います。それは、成長し続け、地方から人・物・金を吸収し続けるしかない東京にはない価値観です。経済成長を掲げ続ける政治にはとても採用することができない方向性だと思います。海士町の挑戦は、日本の社会をこれからどういう価値感に基づいてつくっていくかを考える大きなヒントがあると思います。

この二人が夢見た未来は、日本の未来に通じているなあと思います。

木楽舎、2012年)