神々の国の首都(小泉八雲著)


小泉八雲について、いまさら何かが語れるわけでもないのですが、わたしは八雲さんの著作のうち、この「神々の国の首都」が一番好きです。とくに、出雲を訪れた八雲が、途中の鳥取で不思議な盆踊りに出合って、たどり着いた松江の街で初めて迎えた朝の情景を描いた文章など、これは日本の旅行記の最高傑作と言っても過言ではなかろうかと思います。

朝の松江大橋の下駄の音や、東の空に拝む人、宍道湖の情景や波の音、その風情を余すところなくつたえています。その音の描写がまた素敵です。明治の外国人の旅行記は数々ありますが、いずれも、「野蛮な遅れた国日本」を上から見て、珍妙な風俗をおもしろおかしく書くという視点が少なからず感じられるのですが、八雲の視点にはそうした上から目線がなく、真摯で、細やかで、日本の文化に対する尊敬の気持ちがあふれている、やさしい文章になっていると思います。

八雲と島根を感じたい人には、これが一押しの本ではないかとおもっております!

講談社学術文庫、1990年)