鷗外の坂(森まゆみ著)


「まさかの坂」という言葉がありますが、この本「鷗外の坂」は、島根県津和野町出身の文豪・森鷗外が長らく暮らした東京にある坂を取り上げています。また取り上げるだけでなく、鷗外の半生を描きながら、島根から来たばかりのころに住んだ向島や、千住、上野、千駄木などの坂の風景を織り込みながら、鷗外自身の「人生の坂」を描いていきます。

鷗外というと医師であり、文豪でもあり、家長であり、スーパーマンというイメージですが、一方で、恋をする人であり、離婚と再婚、嫁と姑の不和などがある、悩み多き人でもあり、その人生は「坂」が多いということなのだろうと思います。

鷗外の人生には「上り坂」ばかりでなく、まさかと思うような「下り坂」もあったのだと実感できます。

(新潮社、1997年)