山陽・山陰鉄学の旅(島津邦弘著)


かつて中国山地で盛んに行われたたたら製鉄。その全貌をまとめた、渾身の力作です。島津氏は、中国新聞の看板企画「中国山地」の続編の「新中国山地」の取材班の一人として中国山地を回るうち、たたら製鉄に関する取材を蓄積し、あらためて連載企画としてまとめたものです。

たたら製鉄の歴史、技術、人の物語も含めて、よくぞ一人でここまで調べたなあと感心することしきりです。特にたたらの技術の関する詳細なルポは、記録としても貴重です。そして、たたらが中世以降、中国山地の経済を支え、木炭産業や運搬用にも使った牛や馬の生産など、多岐にわたった経済的な関係も明らかにしていきます。面白かったのは、たたらが途絶えた後も鉄師たちを中心に、中国山地でなんとか生き抜こうとしてきた人々の努力の足跡は、涙なしでは読めません。じーん。中国山地の神髄が詰まった本です。

中国新聞社、1994年)