神名火(佐藤洋二郎)


福岡県出身の作家・佐藤洋二郎さんは、子供のときから高校時代まで大田市で育ちました。この小説「神名火」は、「五十猛」「静間」「波根」「湯抱」という大田市にある地名がタイトルになっている連作短編集です。荒れた石見の海や、岩ばかりの地形という地域の中で、男と女の情欲の世界が繰り広げられます。男女の関係というのは、もつれにもつれていくのですが、その場面が、自分の知っている場所だったり、親戚が住んでいる場所だったりすると、なんだか気恥ずかしく、小説世界に入り込むの2苦労したりします。

佐藤さんは、「猫の背中」で芥川賞候補となり、「イギリス山」で木山捷平賞を受賞しています。本人はあまり、島根で育ったということを言っていませんが、高校生まで過ごした場所への思いがこの小説にあるとすると、う〜む、大田市に対して抱いていた思いが複雑な物だったのかと想像してしまいます。誰にとっても、生まれたり、育ったりした故郷というのは、愛憎半ばする感情に通じますね。

小学館文庫、2009年)