読書画録(安野光雅著)


 島根県津和野町の画家、安野光雅さんが、日本の名作を取り上げ、その舞台となった場所を描いた水彩画と、その小説についてのエッセイをまとめた本です。36人は、森鷗外夏目漱石幸田文樋口一葉山本周五郎川端康成北原白秋ら、明治から昭和にかけての日本を代表する作家です。名作なのに、ほとんど読んでいないことに愕然としますね。こういう名作をきちんと読んでから死にたいものです。

 さて、36人の中に、島根県に縁のある人が2人いました。津和野町出身の森鷗外と、松江に滞在した小泉八雲です。

 森鷗外の作品は、「高瀬舟」。病気の弟を殺した罪に問われた兄が、罪人として下っていく高瀬川安楽死をテーマにした、意志でもある森鷗外の苦悩が現れた作品ですね。安野光雅さんも、郷土の偉人である鴎外の作品のうちから、高瀬舟を選びました。絵は、京都の高瀬川の今の様子を描いています。

 もう一つの小泉八雲は、耳なし芳一。舞台となる壇ノ浦を臨む場所にある赤間神社(旧阿弥陀寺)に、平家の怨霊にひかれてやってきた芳一という琵琶法師の話。絵は海から望んだ壇ノ浦。平家の最後の場面を描いた平家物語の名場面を振り返るエッセイも素敵です。

 本の最後には、森まゆみさんとの対談があり、安野光雅さんが郷土の偉人の森鷗外をどうみていたかや、絵の描き方、とらえ方、について、深くて良い話が載っています。安野さんの軽やかな生き方と、優しいタッチで少し不思議な構図の絵がなぜ生まれるかの片鱗を読み取ることができます。

講談社文庫、1995年)