蝶が飛ぶ葉っぱが飛ぶ(河井寛次郎著)


 著者の河井寛次郎は、柳宗悦らとともに、日本の民芸運動を起こした人です。1890年、安来市の生まれで、松江中学から、東京工業専門学校(現東京工業大学)窯業科に進みました。同校の後輩だった浜田庄司と出会い、全国の窯を一緒に回ったりしました。河井は大学卒業後、京都の陶磁器研究所などに勤めた後、京都市東山区に鐘渓窯を設けて、作陶生活に没頭。35歳のころ、柳、浜田両名とともに日本民芸美術館を設立し、民芸運動がスタートします。河井は、生活雑記の中に美を見いだし続けました。

 その河井寛次郎は、執筆活動にも意欲的に取り組み、民芸運動のことや、自らの作品、美の追究、風土や生活についてさまざまな随筆を残しています。

 今回の「蝶が飛ぶ葉っぱが飛ぶ」は、作陶についての随筆が多いのですが、この表題にもなっている「蝶が飛ぶ葉っぱが飛ぶ」の随筆はわずか4ページ。でも、ぐっときます。戦時中に空襲の京都で立ち至った河井の境地をつづっています。「あるがままを受け入れる」ということが、河井のさまざまな精神の一つになっていたのか、と非常に興味深く読みました。

 柳宗悦と同様に河井は生活の中の雑器を非常に愛した人であり、庶民の暮らしを大切にした人であると思いました。

 (講談社学術文庫、2006年)