五峰の鷹(安部龍太郎著)


等伯」で直木賞を受賞した安部龍太郎石見銀山を舞台した小説「五峰の鷹」。銀を巡る権力闘争と冒険譚ですが、戦国時代には正しいかどうかではなく、強いか、知恵があるか、勇気があるか、という人間の力の争いだということがよく描かれていて、戦国時代というのはそういう時代だったのだろうと思うのでありました。

 主人公の「三島清十郎」は、実在の人物(本当は三島清右衛門)をモデルにしています。この三島家は、出雲市多伎町の出だったそうです。石見銀山が本格的に開発された経緯については諸説ありますが、本格的に開発したのは博多の商人・神谷寿貞とされていて、海上から山が光るのを見て、神谷は出雲国田儀村の銅山主・三島清右衛門の協力を得て銀山を発見します。

 小説では、三島家の長男という設定の「清十郎」は、武芸も商才もあって、日本海、瀬戸内海を縦横無尽に走り回ります。ときは室町時代末期で、鹿児島県の種子島に伝来した鉄砲、さらに、その鉄砲の購入のために必要となった石見銀山の銀をめぐり、大内、尼子、毛利など、中国地方の戦国大名たちが、石見銀山を奪い合う様子が背景にあるので、その歴史的な面白さと、清十郎の人物造形の魅力でぐいぐいと読ませます。

 また、物語の中には石見銀山ばかりでなく、銅鉱山があった大社町鷺浦なども出てきて、島根がたっぷり楽しめる作品ですね。